:: 番外編 - 過去の 3人旅
伝説にならなかった
3人の物語。
酒場の出会い
今より少し昔、勇者という名がまだ重くなかった時代。アリアハンのルイーダの酒場に、 3人の冒険者が集った。
若き戦士、オルテガ。雷の剣技を持ち、強さよりも、真っ直ぐな道を信じる男。
熟練の武闘家、カトリーヌ。素手でたたかう拳法の達人。清々しく、仲間をいちばんに見る目を持っていた。
静かに祈る女僧侶。その名を "彼女" という。落ち着いた振る舞いとは裏に、複雑な感情を隠す女。本名ではなく、偽名を名乗っていた。
そして
3人は、共に旅に出る。魔王に挑むための冒険になるはずだったのだけど… それは人としての本質に向き合う、こころの旅の始まりだった。
ダーマ神殿と霊湯の夜
旅の途中、3人はダーマの神殿にたどり着いた。
僧侶の彼女は賢者に転職した。回復だけでなく、攻撃や補助の魔法も使えるようになった彼女は、その代わりに軽やかさを失い、背負うものが増えた。
カトリーヌは一時だけ魔法使いに転職したが、すぐに戻った。彼は変わらないことで守れるものを選んだ。
オルテガは転職せず、ただ戦士そのまんまで生き方だけを変えようとしていた。
その姿を見て、彼女は置いていかれる不安を覚えた。
ダーマを出発し、ダーマからはるか東の方向 (※ ジパングの西の大陸の、はるか西側) にあった、とあるゆったりとした温泉郷。その別の名は "魂が入れ替わるところで有名" な、怪しさ満杯 (笑) の "名もなき霊湯"
であった。
その夜はオルテガは先に熟睡してしまい、偶然、カトリーヌと彼女の 2人でまったりと湯に浸かっていた。そして、温泉の名処通り、魂 (
? ) が入れ替わってしまった… (爆) その日の一夜、互いの内面を知ってしまった。
彼女はカトリーヌのこころにあったさりげない優しさを、カトリーヌは彼女が抱えていた孤独と未練を感じ取ってた。それは、恋と呼ぶには苦すぎ、友情と呼ぶには近すぎた感情だった。
2人は慌てていた。元に戻るには、この温泉郷のおばばに聞けばよかっただけだった。謎の呪術を振り掛けてもらい、すぐ元通りに戻ったのだけど…
静かな終わり
数日後、カトリーヌは、自身以外のふたりの未来を感じ取っていた。
このまま旅を続ければ、まず彼女を引き戻してしまう… それが分かっていた。また、自分が彼女に特別な感情を持っていたことと、同時にもうそれは過去になったことも受け入れていた。
ある朝、カトリーヌはオルテガにアリアハンに戻ると告げた。3人旅とはいえ、それを止める者はいなかった。それは、わかりきっていた旅の終わりだった。
オルテガはルーラを唱え 3人はアリアハンに戻り、カトリーヌだけは静かに実家に帰っていった。
ふたり旅と再会
残されたオルテガと彼女は、再びふたり旅を続ける。
やがて、ムオルにたどり着いた。そこに数日間滞在した。けれど、そのあと 2人の道は分かれていった。それぞれ理由は言わなかった。別れだけが自然と訪れた。
それから数年後、彼女は本当の名前を名乗ってオルテガの前に現れた。家庭的な雰囲気をまとった彼女に、オルテガは一目惚れしてしまった (笑) オルテガ自身は、その彼女がかつて一緒に旅をした女賢者だったとは、まったく気付かないようす… 女賢者はまるで何かを悟り、生まれ変わったかのような別人であった…
その再会は、かつての 3人旅 (ふたり旅) の続きではない、まったく新しい旅の始まりだった。間もなくふたりは結ばれて、ひとりの娘が生まれた。
おじじの沈黙
アリアハンに戻っていたカトリーヌ (おじじ) は、後日、すべてを知ってしまった…
彼は何も言わなかった。アレルの母は誰であるか、あの旅の終わりが、どこへ行き着いたのかも。けれど、すべてを薄々と感じていた。
だから、おじじは誰にも語らず、心の中でそっと綴じた。共に苦渋 (謎) の旅をしたオルテガや彼女… そう、彼女の名前はエリナ。エリナやエリナの父であるオーエンにでさえ、語らなかった。語って壊れてしまうぐらいなら、語らないままにしておこう。
おじじ「ふう、わしの中であの旅を終わらせればいいんじゃーよ… しょーじき、つかれてしもーたわぃ… ふぉふぉ !」
それぞれの道へ
3人の旅は、誰の伝説にも記されなかった。しかしそれは "英雄たちの物語" の始まりになった、確かな時間であった。今はもう溶け切ったけど、剣の音も、ケン (拳法) の気配も、祈りの声も。だけど、それらの記憶は、アレルたちや旅を続けているすべての者たちの中に、静かに受け継がれていた。
こうして 3人旅が終わったけど、オルテガ自身はまたある決心をし、6才になったばかりの愛する娘を家族と共に家に残し、今度はひとり旅に出てしまうのであった。彼なりの想いがあって。
お し ま い !