:: 番外編 - スラりんくん

も、モンスター… ?!


ぼくに「声」がやってきた

静かな洞くつの奥のほう。だれも来ない、ひんやりした石の間に、スラりんがいた。
毎日とくにやることもなく、光も差してこない、しずかなしずかな場所… ふるふると、ときどき揺れて、ただただじーっとしていた。

「……」

まぁるい、体。青くて透き通っていて、ときどきうっすらぼんやりと光る…
それはまるで何かを思っているような… けど、それはコトバではなかった。

そんなある日、この洞くつに、ひとつの誰かがやってきた。

ドスン… ドスン… ドスン…

重たい音とともに近づくそれ。それは、マオウさまと呼ばれる者だった。
スラりんは、身をひるがえすこともできなかった。ただ、体の奥にある、なにかが、ぴくりと震えてた。

「… 声がほしいか… ?」

マオウさまは、ゆっくりとしゃがみこんで、こう言った。

「おまえにはコトバもない。意思もない。ただ、こころだけはある…」

スラりんの中で、なにかがふるえた。

「おまえに声を与えよう…… !」

マオウさまは静かに手を伸ばし、スラりんのおでこの部分に指をあてた。

その瞬間… スラりんの世界が、ぱあっ… とひらいた。
音、ひかり、世界の "かたち" が、こんなにも色付いていたなんて…

「…… ぴ ? …… ぴ ?」

スラりんのはじめての声だった。それはまだ、はじめての音でもあった。
マオウさまは、それを見てうっすらと笑った…

「そなたの名は "スラりん" … 覚えておくのだ。」
「人間たちのもとへ行け… そして、伝える。」
「世界を…… もういちど、つなぎなおす。」

スラりんはまだ、それがどういう意味なのか、さっぱりわからなかった。ただマオウさまのそのセリフを、ただただ、音として覚えるのであった。
心の奥で、なにかが温かく光った。

そして… 旅が、始まる。


はじめて見た、そら。

ぽん… ぽん… ころ… ころ…

洞くつを出てから、スラりんはどこまでも転がっていった。
体の底からフワっと湧きあがる、なにかに突き動かされるように… まるでそれは風にのって流れている雲みたいに。
スラりんは、ときに浮かび、ときに跳ね、そうして前へ前へと赴くままに進んでいった。

山々に囲まれたジメジメとした暗い森の奥から、開けた草原に近づいていた。薄暗い岩々から差し込むまぶしい光…
スラりんは目を細める (ような感じになった ^ ^;)

「ぴ… ?」

そして、ひらけた世界にたどり着いた。草原の匂い、風の音、虫たちのざわめき、そして、はじめての "そら" … そのときのそらは…… 雲ひとつ無くってとってもっても広くて、どこまでも青かった。
スラりんはしばらく、ただ、じーっとそんなそらを見つめてた。自分と同じ色をしている。それでいてずっと果てしない世界へ。

「ピー」

それはコトバではなかったけれど、今のスラりんなりの、ためいき… だったのかもしれない。
鳥が飛んだ、雲が流れてる、草が揺れてる。

「ぴー」

この世界は生きてる。スラりんもそう思ってた。
けど、スラりんは何となく気づいた、自分はとてもとても小さいことに。
草のあいだに隠れてしまえば、だれの目にも入らない。ぼくの声が届くのは、近くの虫ぐらい。

ぶつかってきたリスに転がされて、川に落ちて、あやうく流されそうになったりもした。旅は、思っていたよりも、怖くて寂しかったけど、スラりんは止まらなかった。

伝えるっていう、マオウさまのしごとがあるから。マオウさまに、それをたのまれたから。
そしてなにより、どこかでこのそらを見てる "だれか" に会える気がしてた。

「…… ぴ、ぴっ ぴき~~ !」

スラりんは、思いっきり、ぴょんっ ! と、飛び跳ねた。はじめてのそらの下で。
この青に負けないくらいの、透明な体で。どこまでも、どこまでも "転がって" いった。


草原での出会い。

周りの長い草に混じって踏まれた草の道が、ずーっと続いてた。青くて澄んだそらの下で、スラりんは、ころころふわふわと進んでいった。鳥のさえずり、虫の声、風に揺れる草。でも、どこか "にんげん" のにおいがする。

「ぴ…… ?」

そのときだった。遠くから何かがやってくる音がした。スラりんは、ふと顔を上げると、草のあいだから、誰かが歩いてくるのが見えた。ひとり…、またひとり…。明るい笑顔の少女、帽子を抱えた小さな子。白い髭のおじいちゃん、そして少し離れて歩く男。

謎のスライム「ぴきーーっ !」

アレル「きゃーっ なにーーーっっ !?」
マゴ「うわっ と、とびだしてきた !」
おじじ 「な、なんじゃこいつはっ !?」

謎の男が、一歩前に出て構えた。

謎の男「おれにまかせな、…… ぶったぎるっっ」

謎のスライム「ぴーーっ やっ やめてー、ころさないでーーー !」

声が出た瞬間、全員がピタッと動きを止めた。

おじじ「な…… なぬぅ ?! モンスターがしゃべりよったっ」
マゴ「なんか、かわいいね♪」

アレルもスラりんをじーっと見て、小首をかしげる。

アレル「このこって、なんなのよ ?! (悪い子じゃないよね…)」

スラりんは、草の上にぺたんと座って、小さく震えた…

スラりん「ぼく、スラりん。マオウさまにしゃべれるようにしてもらったの」

おじじ「なぬぅ ?! ま、まおうが…… ? ますますわからんのぅ……」
マゴ「でもこのこ、ウソついているようには見えないよ (目がキラキラしてる。ウソついてないよ !)」
アレル「ねぇスラりん。よかったら、わたしたちと一緒に、こない ? ただついてくるだけでいいよ。だって、スラりんのこと気になるもん。」

スラりんは、ぱちぱちとまばたきして…

スラりん「ぴ ? ぴきぃ♪」

スラりんはアレルの頭の上に、飛び乗った。

アレル「わっ、ちょっ…… (の、乗った、わたしの頭に !)」
マゴ「あー おねーちゃんずるーい… わたしにも~~」
アレル「だってマゴ、とんがりぼうしかぶってるじゃん、ムリよー。」
マゴ「とったよー ! 交代してー」
おじじ「ぬう…… なにはとやら… ややこしいことになってきたのぅ……」
謎の男「…… もーいいだろ… はやくいこーぜ……」

スラりんはアレルの頭の上で、ぴょこんと跳ねた。

スラりん「ピッ ピキー♪」

それは、うれしいって気持ちが、初めてちゃんと伝わった瞬間だった。
こうしてスラりんは仲間になった。世界をつなぐ小さな青い旅人として、アレルたちと一緒に歩き出した。


なかまって、なに ?

そらは今日も青くて、風もあったかかった。アレルたちは、草原の踏まれた道のりを、のんびりと歩いてた。スラりんは、ぴょんぴょんと跳ねながらただただ、そのあとをついていくだけ。
ときどきアレルの肩に乗ったり、マゴの手のひらにぽすんと飛び込んだり。おじじの頭に落ちて、ひげにひっかかって 「ぴーっ」 と騒いだり。
謎の男にはなぜかあまり近づかないけど、それでもこっそり後ろからついていく。

みんな笑っていた。スラりんも楽しかった。

スラりん (……ぼくって、"なかま" なのかな)

アレルたちは、話して歩く、笑う。ときどきケンカもするけど、すぐにまた笑ってる。スラりんはしゃべれるにはしゃべれるけど、まだほんのちょっとしか話せない。まだ戦えないし、まだ何もできない。ただ、ついていくだけ。

「ぴー……」

その日のキャンプ。焚き火の前に 4人が座って、マゴがスラりんをひざにのせていた。

「スラりん、今日もいっぱい歩いたねぇー」
「ねえ、スラりん、つかれてない ?」
「…… ぴぴ ?」
「スラりんって、コトバへたっぴだけど、ちゃんと気持ちはわかるよ」
「マゴね、動物の気持ち感じとるの、得意なの。」

「ぴ ? …… ぴー…… ?」
「だってね、スラりんがいるとさ、みんなちょっと笑うでしょ。アレルおねーちゃんもおじじも、あの謎の男さんも、ちゃんとスラりんのこと、見てるよ」

スラりんは、マゴの手のひらでじっとしていた。やがて…

「ピ…… ピキ……♪」

そのとき、スラりんがほんのり青白く灯ったようになり、スラりんは体がゆらめいてた。

スラりん (あ、ありがと、マゴ…)

スラりんの中で、まだ慣れないコトバが、そっと芽を出してきた気がした。

そして、夜が明けると、今日もまた、アレルたちの旅は続く。
スラりんはもう迷わないかもしれない。もう、ちゃんと知ってるみたい。ぼくは、みんなのなかまなんだなって。


まもるって、こういうこと… ?

この日は、ちょっと風が強かった。アレルたちは丘の上でお昼にしていた。マゴは帽子を脱いでそこらの草の上で座り、おじじはお茶を淹れはじめ ^ ^;; アレルはおにぎりを手に ^ ^;; みんなそらを見上げていた。
スラりんはその中で、ころん…ころん… と小さく揺れていた。

スラりん (はぁ、今日も、みんなといっしょ……)

風が吹いてた。スラりんの体がゆらりと揺れた… そのときだった。あの草の向こうで、何かが動いた。
スラりんは、ぴたっと動きを止めた。目の前の草のすきまから、にょきっと現れた。それはモフモフした、4つ足の小動物だった。まるい体、つぶらな瞳、短い尻尾。
その姿は、アレルたちから見れば、まぁ… 「わぁ、かわいい~」 とか声をあげそうなほど、人間にとっては小さくて無害な動物だった。

スラりんにとっては、ちがった。
その動物は、スラりんよりとても大きく、そして動きが素早く、ときどき歯を見せて、そして近づいてくる。

スラりん (た、たたたた…… たすけて……)
(マゴが……マゴがたべられちゃう……)

スラりん「ぴっ ぴきーっ」

スラりんは、飛び出した。ころころころっとマゴの前に転がり、モフモフ動物に向かって、全身で立ちはばかる。

「ピッキ~~~~~」

ぷるぷる震えながら、体を大きく広げて必死に "威嚇" ( ? ) みたいなことをする、スラりん。でも声が小さくて、体はやわらかくて、何かができるわけじゃない。

マゴ「ん、なにあれ ?」

スラりんの後ろから、その動物を見て

「あっ、チュミじゃん♪ おじじー、この辺にもチュミがいたよ~」
「ぬう、チュミとな。めずらしいのぅ♪」

スラりんは、ただ震えていた。

「…… ぴ…… ぴ ?」
マゴはスラりんを抱き上げた。

「スラり~ん、ありがと~~。守ってくれて。」

スラりんは、きょとんとしてた。しかしマゴはにこっと笑ってた。
そのときスラりんの体がまた青白くぽっ~~っと光る。なんだか、すこしだけうれしい気持ちになった。
たぶん、まもるってこういうことなんだ、と。こうして、スラりんはまた少しだけなにかを知った。
やさしさって、言葉じゃなくても伝わるんだなって。


ひとりぼっち…

この日、アレルたちはどこかの深い深い森を抜け、とある湖のほとりにたどり着いた。
澄んだ水、きらきらと光る弱い波、風がさらっと静かに吹いてて、そしてどこか少し寂しげな景色だった。

「わぁ、ここ、きれい……」
「ふむ、今日はここで休むとしようかの !」

おじじは早速、荷物を広げる。アレルと謎の男は薪を集めに行き、スラりんはその場に残った。

スラりん (…… なんか、へんなかんじ…)

スラりんは、ふわりふわりと、湖のほうへ滑るように行ってみた。
水辺に近づき、水に触れてみた。
そのとき水面の奥から、ふわりと何かが浮かび上がった。

それは青く透き通った体、まぁるい輪郭、だけど目がなくて、口もない。

「…… ぴ ?」

スラりんは小さく声を漏らした。それは、自分と似てた。けど、違った。そのスライムは動かない。音も出さないし、目も合わない。まるで水の中に閉じこもったまま、だれの声も届かないように、沈んでいた。

スラりん (…… このこ、しゃべれない……)

スラりんは、水辺にぴたっと座って、それをずっと見つめてた。どれくらい時間が経ったか分からない。いつまでもスラりんは、そばにいた。ずっと。声もなく静かに。

「ぴー……」

ようやく、スラりんが小さくつぶやいたとき、その湖のスライムが、すこしだけ震えた気がした。
水面が、ほんのり波打った。一粒、しずくが落ちた。それは涙じゃなかったかもしれない。
スラりんの中では、泣いた気持ちがした。

スラりん (ぼく…… このこみたいになってたのかもしれない… でも、いまはマゴがいて、みんながいて…… ひとりじゃない)

アレルたちが駆け寄っても、スラりんはただじっと湖を見つめてた。

「どしたの、スラりん ?」

スラりんの体は、湖の水面と同じぐらい、青白いやさしい光でそーっと輝いていた。
その夜、湖のスライムは静かに静かに、水の底へ沈んでいった。それは少しだけ笑っていたように見えた。


マオウさまのこえ

ぽかぽかと日が差す、なだらかな丘。アレルたちは木陰でお昼寝中。
おじじはおおいびきをかいて、マゴは草をむしって花輪を作ってる。
謎の男は、本を読んでるふりをしながら、実は寝ている。
スラりんは、ふよふよとそらを見上げてた。

スラりん (…… あおい…)

そらは、いつ見てもきれい。でも、どこか、なにかが引っかかってた。

スラりん「…… ぴ ?」

風が吹いた。スラりんの体の中で、何かがさざなみのように広がった。

スラりん (この風…… なんだか、しってる……)

その瞬間、ふと、どこからか懐かしいあの声が響いた。

(人と、仲良くなれ…)

(マオウさま……)

「……世界をつなぎなおす…」

声は、風の中で紛れてた。でも、たしかに、それは旅立ちのときに聞いたあの声だった。

「ワシは変わりたい…」

マオウさまの声は、さびしそうだった。スラりんは、そのときのことを思い出していた。洞くつの奥、だれもいなかった、あの世界。そして "声" をもらったあのできごと。

スラりん「…… ぼくに… できるの ?」

小さな体が、そっと震える。

スラりん (アレルたちといるの、たのしい。……でも、それだけで、いいのかな……)

風にのって、小さな声が答えたような気がした。

「いるだけでいい。それだけで、道はひらかれる…」

スラりんは、ぽふっと座った。風がそーっと、スラりんの体をなでていった。
そのとき、背後から声がした。

「ねー、スラり~ん。これ、かぶってくれない ?」

スラりんの頭の上に、まるい花の輪がスポっと乗っかった。

スラりん「ぴっ…… ?」
アレル「あはは ! 似合ってるよ、スラりん♪」
おじじ「ぴかぴかスライムの花飾りとは、しゃれとるのう…♪」

謎の男は無言で見ていたが、ほんのちょっとだけ、口元が緩んでいた。

スラりん「…… ぴっ ぴっき~~ーーー♪」

スラりん、風に乗ってぴょんぴょんと跳ねた。その体は、光を受けて、ほんのりきらめいていた。

スラりん (ぼくは、ここにいる。この人たちといる……)
いつかまた、マオウさまの声を思い出す日が必ずくる。けど今はまだ、これでいい。


まっすぐなひとこと。

この日は、ほんの少しだけそらがくもってた。
丘の上にある古い石の遺跡。アレルたちは、その近くに小さなキャンプを張って、雨宿りをかねて昼休みにした。

「今日はちょっと涼しいね」
「ぴっきー…っ」

「アレルおねーちゃん、ちょっと元気がないね~」
「ぴぴっ ?」
「あっスラりん、ごめん。ちょっと考えごとしてた」

「ねえ、スラりん… もし、わたしがわたしじゃなくなったら、どうする ?」
「わたし、強くなりたいってずーっと思ってた。でも最近、なんだかちがうなぁって思ってるんだよ…」
「強さって、敵を倒すこと ? 誰かを守ること ? それとも…」

そして、ふっと目を細めた。

「ただ、まっすぐいることなのかなって…」

スラりんは、小さく震えた。それは、どこかマオウさまのコトバに似てた。

「スラりん、君がいてくれて、うれしいよ。君がしゃべれなくても、戦えなくても、そこにいるだけで。」
「わたし、なんだかちゃんと自分でいられるような気がする」

スラりんの体が、ぽうっと青白く光った。それは、いつもの青白い輝きじゃない。心の奥で、なにかがあたたかく灯るような、深い青白いひかりだった。

「ピ~……」

コトバにはならない、たしかに伝えたい音が、そこにあった。

「ありがと、スラりん♪」

この日、スラりんははじめて知った。だれかの言葉が、だれかのこころを救うことがある。自分がいることで、だれかが自分らしくいられることがある。

ちいさな冒険の仲間は、少しずつ少しずつ、強くなっていた。


ぼくのコトバで。

ある日の午後。いつものように、アレルたちは道の途中の広く空けた場所で休憩していた。近くの木漏れ日の下でマゴが草笛を吹き、おじじはストレッチをしていて、謎の男は木の根元で本を手にしながら半分まどろんでいた。アレルは荷物の整理をしていて、スラりんはひとり、ぽつんと座ってた。
スラりんの中には、今、たくさんのなにかがつまってた。アレルに言われた、あの一言。

「スラりん、君がいてくれてうれしいよ。」

マゴの優しい手、おじじの笑い声、謎の男の無言だけど確かな信頼…

スラりん (ぼく…… なにか、したい…… ちゃんと、自分のコトバで、みんなに……)

「アレルおねーちゃん、かばんの下。なんか、すっごいどろどろしてるよ……」
「え、ちょっと見せて…… わっ 破れてる…っ ! 明日のも入ってたのに……」
「むぅ… このあたりに井戸などないわぃ、次の町までガマンするしかないのぅ。」

スラりん (たいへん…… でも、ぼく……)

足りない、できない、ちいさい、つたえたい気持ちだけが、胸にいっぱいに広がる。

スラりん「ぴ…… ぴー…… ぴき…… !!」
マゴ「スラりん、どしたの ?」

スラりんは、ころころと跳ねて、マゴの足元へ。アレルのそばへ。おじじの前へ。そのまま体を小さく震わせた。

スラりん「…… みず…… あるピー…… ちかく…… にある、ぴぴぴ !」

それはまぎれもなくスラりん自身の初めてのコトバだった。アレルたちは一瞬、黙った。すぐアレルが目を見開いて、しゃがみこむ。

「スラりん…… 今、しゃべった ??」
「ぴぴ…… ちかくに…… ある… ぴ !」

マゴがはっとして立ち上がる。

マゴ「スラりんが、教えてくれてる。お水があるって。」
おじじ「魔物の第6感というやつかぃ ?! いや、本能というやつかのう ? ま、スラりんのいうことじゃからのう。」

スラりんはこっちこっちと訴えながら、ぴょんぴょん進みはじめた。アレルたちはその後を追っていった。
そして、見えてきた森。ほんの少し小道から逸れていったその先に、コンコン… と湧き水の小さな泉が流れていた。

アレル「…… ほんとにあったよ……」

アレルが目を輝かせる。マゴがスラりんを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。

マゴ「スラり~んすごいよ~、ありがとう♪」

スラりんの体は、あたたかくゆれていた。

この日の夜、スラりんは火のそばで静かに目を閉じていた。

スラりん (ぼくのコトバ、ちゃんと届いてた…… 伝えるって、こわかった。でも… すごく、うれしかった……)

スラりんにとって世界はまだ大きくてこわいけれど、自分の声で誰かに想いが届くとき、その一歩が、少しずつ、旅を… 世界を自分のものにしていく。


ぼくは、なにをたのまれたの ?

とある夜、火がパチパチと鳴り、みんなはすでに眠ってた。
マゴはマントにくるまり、アレルは片腕を枕にして横になって、おじじは仰向けで大きないびきをかき、謎の男は静かに目を閉じていた。
森の奥からはフクロウの声、風が葉を揺らして、ひんやりとした夜だった。

スラりんだけが、まだ起きていた。

「ぴ~……」

ぽふっと、草の上にだた座って、いつものようにそらを見上げていた。夜は星がたくさんきらきら輝いていた。

スラりん (マオウさま…… ぼく…… どうしてしゃべれるようにしてもらったの…… ? なんで、人間のところへ行けって言ったの ?)

スラりんは、記憶をゆっくりたどってみた。あの日、暗い洞くつの奥で、光も音もないところで、マオウさまが、ポツリと言った。
「人間と、仲良くなってほしい」「おまえには、心がある」「わたしには…… もうないのかもしれない」

スラりん (……マオウさまは、さびしかったんだ…… 誰かと、こころでつながることが、できなくなってしまったんだ……)

そして、ぼくを送り出した。

「世界を、つなぎなおしてこい」「人と魔、どっちでもないものと」「話すことも、分かり合うことも忘れた世界に…」

スラりんの中で、そのコトバがはっきりと響いてた。

スラりん (ぼくは、話すために、生まれなおしたんだ…… 声を持ったのは、だれかになにかを伝えるため…… それが、マオウさまの願い…)

スラりんは、少し震えた。どちらかというと、ああそうだったんだ、という気持ち。

スラりんの足元で、アレルが寝返りを打った。

マゴ「んにゃ…… おじじぃ… スラり~ん…」

その姿を見て、スラりんは小さく揺れた。

スラりん (ぼくに、できるかな ? 人とマオウさまを、そして、世界を…… ? もういちど、つなげるなんて)

そのとき、スラりんの胸に何かのコトバが灯った。それはアレルの言葉。

「スラりん、君がいてくれて、うれしいよ」

マゴの手のぬくもり。

「もう仲間だよ」

そして、はじめてコトバを伝えられたときの、うれしい気持ち。それらが、スラりんの中に残っていた。

スラりん「…… ぴ……ぴぴ ?」

星が流れた。そのとき、スラりんは小さな声でつぶやいた。

スラりん「…… ぼく、つなぐよ…… ぜったい、つなぐよ。」

それは、誰にも届かない、小さな誓い。でもそれは、きっとどこか遠くにいるマオウさまのこころに、そっと触れた "音" でもあった。

こうして、スラりんは、自身の旅を、使命の旅として… 自分の足で、こころで歩き出すことを決めた。まだ小さくて、か弱いけれど。


お し ま い !

← BACK   |   HOME →

上に戻る