:: 番外編 - ロマリア王国

わしと、わたしと、ロマリアのこと


ふぁふぁ ! と笑うおおさまと、黙って支えるおうひさま。

「ふぁふぁっ、今日もカジノじゃっ」
「陛下… 帽子ぐらい整えてから、お出かけくださいまし…」

それが、ロマリア王夫妻のいつもの会話。この国のおおさまは、とても気まぐれで冗談好き。昼からちびちびと葡萄酒を飲み、よく笑い、そしてすぐ飽きる。
王妃さまは、静かで優しい。必要以上のことは言わず、何か心配そうなおおさまのそばに控えてる。誰もが思っている。このふたり、正反対。でもこのふたりの間には、言葉にしない深い信頼と、あきらめと、やさしさがあった。


いつも王冠がなくなった !

かつて王家の象徴である王冠が、盗賊カンダタに奪われた。おおさまは王座で叫んでいた…

「わしのっ ! わしのたからがぁああああっっ」
「そんなに騒いでも戻ってきませんわよ…」

そしてそこへやってきた、3人組。
そのうちのひとりがおおさまの頼みを聞き、そしてなんだかんだあって王冠を取り戻し、おおさまに返してそのまま黙って立ち去っていった。

「ふぉぉ… なんといさぎよい男じゃ……」
「ああいう方には王冠など似合いません。」

その日、おおさまと王妃さまは、静かに夜を過ごしていた。ふたりとも、初めて王家としての自分たちを見つめ直す夜だった。


娘のような人

それからいくつもの年月が経ち、アレルたちが現れた。
明るく、元気で、肝心だけど少し抜けている… そんな少女。
その姿に、おおさまは目を細め、王妃さまは胸が騒いだ。

おおさま「あの娘、どことなくオルテガに似ておるのぅ」
王妃さま「いえ、陛下。むしろあのかたが、なり得なかった姿に似ていますわ。」

あーだこーだあって王冠をなくす物語 ? を作りあげて、王は悩み、ぽつりとこう言った。

「わし、王冠をなくしてしまったんじゃ ! そち、一緒に探してくれないかのう !」

王妃さまはなにも驚かなかった。夫のそういうところを、よく知っていたから。


王妃、静かに諭す。

王妃さまは、何度か彼女に静かに寄り添った。

「お困りのことがあれば、何でもお話しくださいね。」
「ありがとう王妃さま ! でも、わたし… 多分、女王さまにはむいてない。」

「やっぱりあの娘には、自由が似合うのう…」
「そんなこと最初から、わかっていたことでしょう。」

王妃さまは、そのセリフに怒りも嘆きもない。ただ、長年連れ添った者だけが出せる、柔らかなあきらめ、そして慈しみがあった。


そして "ロマりん" へ

ロマリア王国の市民の期待に反して、わずか数日でアレルは女王 !? を止めてしまった。そして女王アレルが退位したことが決定打となり、市民も、おおさまが政務からいっさい手を引く決意したことを内心では大歓迎した。

(ボソ… ロマリア王国の王政のことは難しいですから、詳しく書くのはまた今度ね ^ ^; ここにはちょっと書けない… ^ ^;)

おおさま「これからは、ふたりでのんびり暮らしていこうかのう。」
王妃さま「それがいちばんですよ。」

おおさま「この国は~~ (長ったらしいので省略しました ^ ^;) … これから "ロマりん" として生きていくんじゃっっ !」

ロマりん ^ ^; の市民は、底から笑っていた。王妃さまは肩をすくめ、ふたりは並んで手を振っていた。


記念碑

おおさまと王妃さまが王座を離れて数か月後。市民のあいだではこんな声が広がっていた。

「なあ、何か残さなくてもいいのか ??」
「わたしは孫にも話したい。昔ね、こんな王様がいてね、失敗も笑いも退位もすべて含めて、それがこの国の優しさの原点だったよって。」

議会で静かに決議が交わされる。正式な称号は必要ない。ただ、あの人たちがいたことをひとつのかたちにしようと。

記念碑の場所は、おおさまと王妃さまがよく散歩していた城下の小高い丘の上に決まった。石造りの背の低いモニュメント。王冠のかたちをした石の枠に、控えめにこう刻まれていた。

「ここに、"名を持たないふたり" が風を見送った。ロマリア自由民主国の始まりに…」

飾りっ気のない石碑だった。王様の小さな要望通り、立派過ぎず、訪れて見た者が、笑顔が残るものに仕上げてほしいと。


静かな日々と、たまの来客

それから 7年後。いま、ふたりは小さな離宮で、穏やかな日々を送っている。
おおさまは、ときどき庭で釣りをしながら、よくこう言う。

おおさま「ふぉっふぉ、アレルたちは元気にしておるかのう ?!」
王妃さま「きっと忙しくて、わたくしたちのことなど、すっかり忘れてますよ !」

おじじやかつての仲間たちが、おおさまと王妃さまの離宮にひょっこりと、まるで子供関係の友達のように遊びに来る。そのたびに離宮は昔話に花を咲かせ、大きな市民の家となった。

市場のパン屋さんの娘「あの日のこと忘れてません ! 雨が降ってた夜に母が言ってたんです。おおさまが泣いてたって。また王冠のことじゃない ? って。でも次の日、立派な男の人が城に来ておおさまとお話してたのを見てましたよって。それから私がお店を継いで、街もちょっとずつ変わっていくのを感じました。最後におおさまを見たのは広場でした。ロマりんとして生きていくんじゃ ! って叫んだとき、わたし、泣いてました」

とある道具屋さんの老人「わし、おおさまが王座におった頃から、おっちょこちょいじゃがきらいにもなれん男、と思ってたんじゃよ ! 最初は、おおってのは立派で偉そうなもんとばっかり思っとったよ。おおさまが、ある日… 市場を歩いていて子供にお菓子を配っていたのを見ててな。あぁ、この国はそういう近くにいるおおさまがいてくれて本当に幸せじゃったよ。おおさまが踏み外しそうになったらすぐ王妃さまがぴしゃりと直してたのう… 夫婦ってのはああいうもんじゃないかもしれんな」

小学生たちがロマりん歴史授業中に「せんせー、ほんとに "ロマりん" ってむかし、ロマリア王国だったの ??」「はい、でもね、おおさまが "ロマりん" でいいんじゃ ! って言ったから変わってしまったんだって !」「ヘンなおおさまだね !」「でもね、そのおかげでいまの私たちの国があるんでしょ。」「ロマりん、ばんざーいっ♪♪」

旅人の記録者「この旅人の地図… ロマりんってどこだ ?? この地図はロマリア王国じゃないか… おかしい…」「ふざけた名前かと思ったが… まぁ歩けばわかる」「市場では老人も子どもも、むかしのおおさまは… と笑いながら語っている。けど眼差しは家族を懐かしむようだった。誰も王政を倒したとは言わない。みんなが、おおさまが自分から後ろへ下がっていった… と語っている…」「… こんな国、見たことないぜ… (=_=;」

とある老婦人「陛下は本当に王には向いてなかったのかもしれません…」「でもね、向いてなかったからこそ、私たちはいっときも忘れなかった。」「王妃さまはいつも静かでおられた。陛下の横顔を、なん 10年も…」「陛下が王でいてくれたことを、私は誇りに思いますよ。名乗らなくなった今でも、やっぱり、私たちの王様です」


エピローグ

春の終わりの季節のとある日の午後、誰もいない草原に並んで腰かけるふたりがいた。小さな子が母親のそでを引っ張り…

「ねえ、あの人たちってだれ ?」
「それはねぇ、むかしの王様と王妃様だよ。」
「そうなんだ~」

子供は何も知らないまま走っていく。ふたりは見送って微笑んだ。名もないふたりの背に、ロマりんの風が吹き抜ける。

そこへ、また人が並ぶ。

「やっぱり来てたんですね」
「これ、要らんかった気もすんだがなぁ…」
「ええ、けど、それでも、きっと誰かの支えになってるんじゃないかしら ?」

花の一輪をそこに置いた。ロマりんの風がそよそよと吹いていた。

ある初夏の朝、この記念碑の前に、ひとりの女性が立っていた。



風に揺れる長めの黒髪、冒険者のようなブーツ、小さなマント。そう、彼女なりの正装だった。
彼女はそっとしゃがみ込み、指先で石碑の文字をなぞった。

「… 覚えてるよ。あのとき、ちょっとだけ女王さまだった私。でも、それより、私をひとりの旅人として見てくれたことがすっごくうれしかったよ…」

彼女は立ち上がり、手前の草の上に小さな野花をそっと置いた。名前も知らない野花だったけど。風が吹いていて涼しかった。

今でも丘の上にはその石がある。銅像もない、名前もない。ただ、確かに "ふたりのぬくもり" は残ってる。おおさまは名を捨て、王妃さまもそれについては沈黙したままだった。ふたりがここに生きて、国を見て、風を送ったことは誰もがしっかり覚えていた。
それがロマりんの記念碑。王でも妃でもなくなった、ふたりの "ありがとう" の形であった。


お し ま い !

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