:: 番外編 - ダーマの神殿
ここは選ばれし者たちの岐路
かつての旅路
今から 26年前。
若き勇者、カトリーヌ (若かりし頃のおじじ、Lv.54 武闘家)、女僧侶 (のちに賢者へ、Lv30 僧侶、25才)
雪混じりの風が吹く、山あいの古き道のり。その先には厳かな石造りの神殿があった。そこは、ダーマの神殿… と呼ばれていた。
ヒトが、己の道を変えられる、唯一の場所。だがそれは "力の特権" ではない。"覚悟" を持った者にしか扉は開かれない。
「本当に…… ここで変われるのね。」
「おぬしはかわらんでも十分強いがな……っ」
カトリーヌはあっけらかんと言うが、女僧侶はその言葉にはどこか視線が泳いでいた。
そしてオルテガはいつも通り、黙っていた。その両肩には仲間たちの期待と、国の命と、そして勇者という重すぎる名がのしかかっていたから。
「オレは転職する」
沈黙の中、オルテガは静かにそう言った。
「勇者って名前は称号だ。生き方じゃない。俺は "戦士" になる。己の腕で道を切り拓く生き方を選びたい。」
そのセリフを聞いた瞬間、女僧侶は目を伏せ、そしてカトリーヌはなぜか小さく笑っていた。
「えぇ、いいんじゃない ? わたしも、知識と癒しでみんなを守る方法を選ぶわ。」
そう言って、女僧侶は賢者に転職した。
オルテガは転職ではないものの、称号を捨てて、実質戦士になった。その 2人を見てたカトリーヌはその場を離れようとしたが…
「おい、カトリーヌ ?
おまえは転職しないのか ?」
「んー…… じゃぁ、わしゃ、もういちどぐらい "魔法使い" にでもなってみるか… 若い頃に "氷" は少しできたしな……」
「… 似合わない」
「うるさい…っ」
2人が笑った瞬間、1人だけ… 女賢者の表情は曇っていた。カトリーヌが魔法に手を出すこと、それがどこか引っかかっていた。
祭壇が、静かに青い光を放った。
現在の道行き
再び何の縁か、ダーマのもとに、アレル、おじじ、マゴ、謎の男、スラりんが並んだ。
ここ、ダーマの神殿。このとき、すでにダーマは中を失っていた。石碑は崩れかけて、祭壇はかつての青白い炎は灯していなく、乾いていた。だが気配だけは残っていた。
「ここが…… ダーマの神殿… ?」
「うわぁ…… これ、ほんとに神殿なの ? (祭壇を見ながら…) ここに火、つけちゃだめなの…… ?」
「これ、だ、だめじゃっ」「もやすなよ……」
謎の男は、黙って周囲を観察していた。アリアハン図書館で知識をため込んだ彼の目は厳しく、どこか懐かしさを感じさせるような遠さもあったけど…
「これは、たぶんもう動かないぜ…」
おじじが指差した石碑には、古びたアリアハン大陸の主言語である文字で、こう刻まれていた。
アレルがそれを手でなぞると、かすれていた中で、一文字だけが青白く浮き出てきた。
「えっと… O (オ) R (ル) TE (テ)
… ORTEGA (オルテガ…) … え… っつ パパが…っ」
この広間の空気が変わった。まるで "過去" とつながったかのような、この場所に残っているかのような。
試みと、その拒絶。
「試してみようか…… ?!」
謎の男は祭壇の前に立ち、いくつかの謎の詠唱を繰り返してみた。それらはあらかじめアリアハン王立図書館で覚えた、謎の詠唱呪文だった。しかし、どんなに気持ちを込めて、何回も詠唱しても、何も起こらない…
「神の声、導きとか、ここにはもうないようだ……」
「信仰を失ってしまったかつてのあの神殿じゃのぅ、これが… さみしいのぅ……」
「おじじぃ、じゃぁ賢者に転職できないの ?」
「ふ… ふむ…っ、なら "ダイマドーシ・リル" を名乗るがいい、ふぉー、ふぉっ」
「いやだっ かっこわるいっ」
おじじとマゴのやりとりに、アレルは何となく。静かに手を広げて、誰かに… 問いかけてた。
アレル (わたしは勇者アレル… "転職" できないんじゃなくて、なんか、しなくてもいいのかもしれない…)
アレルの答え
その日の夜、焚き火の前で、アレルはひとりでそこの足元の石ころをぼーっと見つめていた。
転職しなくていい。でも、何か変わらなきゃいけない気がしてて…
アレル (わたしは勇者でも戦士でもなく、ただのアレルだけど…)
アレル (だったら、うん、"生き方" で変わるかな…)
職業でもなくスキルでもない。誰かのこころに火を灯す、そんな生き方。それがわたしの "転職" だ…
「わたしの転職は "灯火を渡す人"」
その瞬間、焚き火が大きくなり、揺れ、風が吹いた。
それぞれの選択。
かつて、父オルテガは、称号勇者を捨てて実質戦士になった。肩書は勇者であり本人は戦士。それは誰よりも "勇者らしかった"
カトリーヌは一度魔法使いになったが、やっぱり自分には合わないと気づき、もとの武闘家に。
賢者となった彼女は、その先で "別れ" を選んだ。
そしてアレルは、誰にも与えられなかった新しい称号、"生き方そのものを転職する" という答えを自分で見つけた。
風の記憶
翌朝、アレルたちは神殿を発つ前。
アレル「私は、ここで "灯火の生き方" を選びました、アレル、まる。」
そう言いながら、そこらへんにあった小さな石碑に見せかけた石に、そう小さく刻んだ。
風が吹いていた。どこかで 26年前のあの 3人の笑い声がふと流れていくような、そんな風が…
お し ま い !