:: 番外編 - マオウのお城
ここ、マオウさまのおしろ、ぴー !
マオウさま
かつてワシは、誇り高き魔族の王だった。争いの中に生き、力をもって統べることを良いこととしていた。
だが、時代は変わった。人間の国がとても増え、人間の剣と魔法がワシらを囲み、"魔物" (モンスター) という名を付けて、その名のもとに、ワシら全てが人間の敵とみなされていった。
ワシは恐れた、こころを失うよりも先にワシらの尊厳を失うことを。
"ゾーマ" という名を聞いたとき、ワシの胸の奥に氷のような痛みが走った。
氷のような声だった。それは何も語らず、ただ命じるだけの声。それでも、ワシは従った。
なぜなら、ゾーマの支配のもとでなら、ワシのちからは決して衰えず、また奪われない。けれどそれはこころを "やつ" に明け渡すことだった。命じられるがままに人間と戦い、ただ、この地上世界を "われらの支配" のかたちに整えるだけの器になっていた。
青いかけら
気づいたときは、すでに、怒りも悲しみもなにも湧かなくなっていた。
そのとき、ふと、なにかいつもと違う魔力がにじみ出た先に、小さな青い "かけら" が生まれた。
それを見て、ワシはほんのわずかだけ… 泣きそうになった。
なぜかわからなかった。ワシの中に、まだ "泣くもの" が残っていた、ということなのか。ワシは、それを、戦いから隔離された、とある平和な大陸のどこかの洞くつへ置いてきた。それには、なにも教えず、なにも告げず。ただ、ワシからとても遠いところへ。
それが、ワシが唯一、こころで選んだ上でとった行動だった。
そして年月が過ぎ、ワシは "魔王バラモス" と呼ばれる立場になり、王座に留まる "石像" と化してしまった。
そのあいだも、青いかけらのことは、ずっとずっと… 忘れられなかった。
"石像" の移動手段、ルーラ。
ある日、ワシは決心した。ルーラで、再びその洞くつへ向かった。
なにかを返すためではない… まだ "自分" でいられるうちに "存在" に "意味" を与えたかった。
声… それは、ワシの本心。
あの子が "コトバ" を得て初めて鳴いたときは… ワシの胸の奥でひとつだけあたたかいものが灯った。
ワシはまだ死んではいなかった。
再会とマオウさまの願い
そして、今日。あの子が… アレルたちを連れて戻ってきた。
スラりん「マオウさま、マオウさまをたすけてあげてっていったら、きてくれた… ぴ~~ !」
その言葉を聞いて、わしは初めて "自分のこころ" で笑った。
あやつ (あのゾーマ) がどう動こうがワシは構わない。この世界がどう終わろうと、それは知ったことではない。
だけど、スラりん (たち) の未来は信じた。
マオウさま「スラりんだけは… どうか守ってやってほしい…… ワシの願いはなにもいらない……」
マオウさま「ただ、ここにいるわが子たちの未来に "マオウ" は必要ない…」
マオウさま「ワシはここに残る…… ゾーマに見張られている、この王座で。ただ、沈んでいくままの過去として、王座と共に在り続けよう……」
マオウさま「でも、お前たちは違う… アレル、おじじ、マゴ、謎の男、そしてスラりん。地下の世界へ行くなら、ワシは見送る。最後の旅人たち、どうかその先に、何も戦わなくてもいい未来が訪れることを。」
それが、かつて魔王と呼ばれたワシ、バラモス… のこころのそこからの願いごとだった。
お し ま い !