:: オルテガの冒険
ここはアリアハン
アリアハンを目指して
レーベを立ち、再び旅を始めて、数日。
行商人の荷車の後ろにこっそり乗ったこともあれば、村人の好意で馬車に乗せてもらったこともあった。
王都が見えたのは、旅立ちからさらに 3日後の朝。その荘厳な門の前で、彼は衛兵に止められた。
「名を、名乗れ」
問いに、少年は口をつぐんだ。答えが見つからなかった。
本当の名前を言いたくなかった。言えば、すべてが、過去になる気がした。
沈黙に包まれたその場で、衛兵は迷いながらも、彼を王宮に連れていった。
アリアハン王
王座の間。
白と金の広間の奥、玉座に座るアリアハン王。その眼差しを、まるでかつての若き自分を見るかのように、じっと少年を見つめていた。そして、しばらくしたのちに、こう少年に問う。
「そなたは、誰じゃ ?」
少年はゆっくりと顔を上げた。そして、また黙った。その目には、言葉以上のものがあった。
王はその眼差しを、しばらくじっと見つめていた。そして、小さくうなずくと、こう言った。
「…… よい。ならば、わたしが与えよう。おまえは、太陽を背にして立つ者。古代語で、それを "オルテガ" と呼ぶ」
少年は、その名を心に刻んだ。彼は自分の名前を、自分では名乗らなかった。けど、その "オルテガ" という、代わりの名を付けてくれたのは嬉しかった。彼はそれでよかった思っていた。
この場所からが、始まりなのだから。
稽古の日々
アリアハン王は、少年を城で引き取った。
剣術の教師をつけ、読み書きも教えさせた。不思議なことに、少年はすぐに学んだ。初めて握ったはずの木剣も、初めて見るはずの文字も、まるで体に染みついていたかのように。
「彼には、もともと "才能" がある…」
「いや、それより…… 生きるために必要だったのだろう…」
教師たちはみなそう語っていた。
年月が過ぎた。少年は、いつしか少年ではなくなった。胸にはいつも、小さな喪失感が残っていたけど、それを誰にも語らぬまま、剣に乗せて、彼は鍛え続けた。
やがて…
アリアハン王は宣言した。
「この者を、我が王国の剣とする。その名を "オルテガ" と呼ぶ。王に仕え、最も信頼すべき戦士となる
!」
こうして、ひとりの少年が "勇者" と呼ばれる男へと歩み始めた。
王の剣となった、アリアハンの王宮で育ったその少年は、やがて青年オルテガとなる。鍛えられた体はしなやかであり力強く、剣術は王国でも
5本の指に入ると言われ、モンスター討伐の任務にもたびたび抜てきされるようになっていた。だが、彼は「戦いたい」と願ったことは一度もない。
戦う理由が、ただひとつ、胸にある。いまも眠り続けるノアニールの村。風に揺れる花畑で、笑いながら踊っていた、緑の髪の少女……
それが最後の記憶だった。そして、緑の髪の村の人々の笑顔を取り戻すためにも。王はオルテガに剣を託したが、オルテガ自身は
"勇者" と呼ばれることを好まなかった。